「君の名は。」劇伴の感想。【RADWIMPS】
観たんですね、先週。「君の名は。」を。
で、その日のうちに劇伴も買いました。
もっと言うと小説も買いました。ものすごいハマりっぷり。
映画本編の話はまぁ置いておいて、今回はRADWIMPSが手がけた劇伴盤の感想をつらつら書きたいと思います。
ただ、ほんとに映画に寄り添うような劇伴なのでどうしても映画について触れなきゃ伝えられない場合は内容の事も書くかも。
だから「ネタバレ注意」って書いておきますね。
RADWIMPSが伝えていたこと。
僕がRADWIMPSを知ったのは今から8年近く前のこと。
当時一人暮らしで住んでいた北九州の小倉に390(サンキュー)マートという、なんでも390円で売ってる古着屋があり、そこの店内BGMで「最後の歌」が流れていたことが出会い。
「今僕が生きている それだけで 幸せだということ」という印象的な言葉が何度もリフレインされるその曲を聴いて単純に「とてもいい曲だな」と思った。
一緒に来ていた学校の先輩にそのバンド名を聞き、その帰り道にあるTSUTAYAで「RADWIMPS 3」を借りて帰ったように記憶している。
- アーティスト: RADWIMPS
- 出版社/メーカー: EMIミュージック・ジャパン
- 発売日: 2006/02/15
- メディア: CD
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RADWIMPSが…もとい、野田洋次郎が描く詞の世界観は、今考えれば「セカイ系」のそれだったのかもしれない。
「君と僕」しかいない、存在しない、必要ないセカイの中で起こる衝突や愛憎や葛藤。
でもだからこそ、とことん純粋にもなれるし、時折病んだような心持ちにもなる。
だから例えば「マニフェスト」の様な底抜けに有頂天な(フリだけど)世界観をも構築してしまうし、「五月の蝿」の様なドロドロで醜さを覚えるくらいのものにまで行き着いてしまう。(曲名をクリックすると歌詞を見られます)
それでも、いや、だからこそ信頼出来ると思うのだ。
予想も出来ないような切り口で、たまには気持ち悪くなってしまうくらいの言葉で、「愛」を綴る。それは時には病的なまでにストイックに。
普段僕らが目を伏せて、目に入れないようにしているところをズバズバと攻めてくるのだ。それが例えバンドの世間的評価を落としたとしても、スタイルは変えない。むしろそれは鋭くなる一方。
それくらい野田洋次郎が綴る歌詞は独特で、唯一無二のものがあると思う。
だからといって彼の綴る言葉全てに心酔しているわけじゃなくて、「作家」として見た時に、非常に面白いし、興味深いということのだ。
(初めて聴いた時に号泣してしまった曲。名曲。)
RADWIMPSのピュアネス。
先にも書いたように、RADWIMPSはやはりピュアだ。
ドロドロと蠢くような心情を吐露したような歌詞であっても、その根本は、実は透明で澄み切っている。
そのピュアな部分が今回の「君の名は。」に非常にマッチしていると思う。
今作には4曲のボーカル曲と22曲の劇伴が収録されており、その全てをRADWIMPSが手がけている。
劇伴(ボーカル曲ではない音楽)について。
非常に驚いた。RADが作っているとは思えないくらい「徹して」いると思った。
三葉らキャラクターがまとう洋服や、糸守高校の校庭に生える木々や、新海誠作品独特のキレイな空模様のように、"作品"に重きを置いている音楽なのだ。
そこに「らしさ」というものは無い。RADが作ってるんだよって言われなければきっと分からなかっただろう。
その「作品に寄り添う音楽」に徹した結果、彼らは新しい彼らの色を獲得したように思う。 それが如実に現れているのが「ストリングス・アレンジ」だ。
今回の劇伴には多数、ストリングスのサウンドが入っている。
2曲目の「三葉の通学」から早くもそれは始まる。(「三葉の通学」は映画本編においても"最初"のBGMだ)
そこから「糸守高校」「はじめての、東京」と重厚なストリングス曲が続く。
そして「御神体」。
この曲はすごい。映画の内容にもとても合っているし、音楽単体として聴いても美しく、厳かで、心を奪われてしまう。
スペースシャワーにて放送された特番を見たが、このストリングス・アレンジも野田洋次郎自らが行ったのだそう。
まず言いたいのは「普通のバンドマンじゃ無理」ということ。
バンドマンってのは基本的には「軽音部」な脳みそなのだ。
ギターを弾いて曲を作り、コードを付けて、そこに色々足していく、という脳みそ。
ストリングスのアレンジというのは全く別の脳みそを使わなくてはいけない。
ギターで言えば、「C」というコードを弾くのにはそのコードを押さえてじゃ~んと弾けば良いのだが、ストリングスは違う。
ド・ミ・ソという和音をヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス…などという似て非なる楽器に変えて一音ずつ鳴らさなければならない。
そこにメロディの旋律を乗せ、ビブラートや強弱の指示を加え…
かなり気が遠くなる作業に思います。僕みたいなのが想像するレベルであっても。
それをやってのけた事にまず拍手だし、この経験がRADWIMPSとしての音楽にどう影響してくるのだろうと思うとワクワクしてしまう。11月に発売予定の新作が楽しみになる。
(余談だけど…illionも新譜出したし、RADも新譜出るだなんて、今年は凄いな洋次郎…)
個人的に注目したいのは「口噛み酒トリップ」という曲。
エレピを使ったアンビエントな音像から、美しくも恐ろしみのあるストリングスが入ってくる展開。
ここのシーンは映画本編を観ていても「おお…」と思った。
あとは「三葉のテーマ」や「デート」「秋祭り」「御神体へ再び」等と言ったピアノが主体の曲。RADの曲の中にもいくつかピアノが鳴っている曲はあったが、正直、比じゃない。こんなに弾けちゃうんだ…と驚いた。そしてそのどれもが美しいのだ。
全編を通して、非常にクオリティの高い"劇伴"であると思ったし、この実績は今後音楽業界、映画業界を変えることになるのではないか、と思う。
今までもバンドが映画音楽を担当した作品はあったが、それはどちらかと言えばファン向けのものだったように思う。もちろん嫌いじゃないけどね。(「真夜中の弥次さん喜多さん」でのZAZEN BOYSの劇伴とかサイコーに好き。)
バンドとしての音楽というよりも、「君の名は。」のように作品と音楽が気持ちよく混ざりあって、映画として観た時に完成を遂げるような…。そんな作品が増えていけば非常に面白いし、新しいマーケティングにもなりそうだと思った。
「君の名は。」に関してはRAD側が「オレがオレが」な音楽には絶対にしなかったことがとても重要だったと思う。むしろ「どうぞどうぞ」って姿勢が。
ま、それも4曲のボーカル曲があったからこそ成立したバランスだったのかも知れないけれど。
ボーカル曲について。
映画本編で流れるボーカル曲が4曲もある。まずそれが珍しい。
「アナと雪の女王」の様にミュージカル風な演出ではなくね。(あれはあれで大好き。)
まずは「夢灯籠」。
※ちょっとネタバレ注意
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「君の名は。」にはTVシリーズで放送されているアニメ作品のように「オープニング」が存在する。そこで流れるのが「夢灯籠」という曲だ。
疾走感があり、シンプルにかっこいい。思わず一緒に口ずさみたくなる。
このオープニング映像がまた秀逸で、結構重要なシーンもインサートされていたり。
それが結果伏線になり、本編できちんと回収されるわけなのだが。
これからどんな物語が始まるんだろう?とワクワクさせてくれたり、きちんと歌詞と対峙すれば「なるほどなぁ」と思うようなことが書いてあったり。この曲から全てが始まるんだなと思うと感慨深い。
「前前前世」
いい曲だよね。RADらしい。
でもね、ちょっと言いたいのは、「これが今ウケるのかよ!!」とも思ったり。
いや、批判じゃなくてw
古くからのファンとしては「前前前世」のような曲って結構あるから今更?!なんて思っちゃうんですよ。
「君と羊と青」や「会心の一撃」、「魔法鏡」に「ドリーマーズ・ハイ」…。
RAD節が効いたアップテンポなロックナンバー。今までにも沢山あったのに!!って思っちゃうんです。これはファンだからしょうがないね…w
「前前前世」が気に入ったのなら、ぜひとも他の曲やアルバムにも触れて欲しいな。
「スパークル」
この曲の印象的なピアノのリフ。これは実は数年前から存在していて、でもあまりにも綺麗すぎるから寝かせていたのだそう。そして「君の名は。」という作品に出会って、やっとその綺麗さや世界観に自分が追いつき、書くことが出来たのだとか。
間奏が長く、途中空白時間もある…劇伴としての意味も担っている曲。しかし間奏の間も映画のシーンを思い浮かべていれば全然長く感じない。不思議。
後半のメロディと歌詞でぐぐぐっと涙腺がノックされる。
「なんでもないや」
これね…。エンドロールで流れるのだけど、もう…素晴らしすぎて。
エンドロールの間、映画のシーンが浮かんでは胸が締め付けられ、ボロボロと涙が止まらなかった。
ほんとに「もうええやん!もういい加減泣かんでもええやん!」って思ってるんだけど、止まらない。溢れてきてしょうがない。
映画ナシで聴いていたらおそらくそんなことは無かっただろうから、やはり映画を通して聴いたことが大事だったのだろうけど、それにしても、すごい。
今まで感動するような映画は沢山観てきたつもりだけど、こんな感覚は初めて。
サウンドのぬくもりと力強さ、洋次郎の声と歌詞。
それがとにかく胸に響いてしょうがなくて、これを書いてる今でも若干泣きそうなくらい。
ものすごい曲を作ったな…と思った。この曲はある種、今までのRADが作り上げてきた世界観の"答え"だとも思えた。これが言いたかったんだよね、きっと。
「なんでもないや」って、色んな言葉を使って届けようとした思いを少し否定しつつも、それでもやっぱり"君"を追ってしまう。求めてしまう。
そんな「なんでもないや」をタイトルに持ってくるところも、なんともRADらしい。
この曲は「天空の城ラピュタ」における「君をのせて」のような。
「魔女の宅急便」における「やさしさに包まれたなら」のような。
そんな普遍的で、でも新しくもある"テーマ曲"であると思う。
おわりに。
観に行ってから丁度一週間が過ぎましたが、未だに行き帰りの車の中ではこの劇伴音源しか聴いて無くて、というかこれしか聴けなくて。
とても美味しいものを食べたあとのような満足感がずっと胸にあり、じんわりと身体に染み込んでいくような感覚があります。
とにかくRADが好きな人には絶対に観て欲しい映画だし、そうでない人にも無理やり観せたいくらいの素晴らしい作品です。
売れてる売れてないは関係なく、エンターテインメントが好きなのであれば一度は触れて欲しい傑作です。「君の名は。」以降と以前ではきっと何かが変わってしまうくらいの重要な作品なのです。
どうか色眼鏡をかけずに、自分のタイミングで良いから、必ず観て欲しいな。
以上です!