音楽の冬。
昨夜通ったバイパスの上部に設置されている温度計(というかその時の外温度を表示しているLED電光掲示板)に「3℃」と表示されていた。紛れもなく「冬」という季節の中にいるのだなぁという事を思った。
秦基博氏が「鱗」という曲の中で名フレーズを書いている。
『季節の変わり目は曖昧で気づいたらすぐ過ぎ去ってしまうよ』-鱗(うろこ)/秦基博
「今日この日から冬だ」という明確な変更線は無く、気づいたらもうその時既にその季節の中にいる。今年も明確に「秋」を感じられないまま、過ぎ去ってしまった。
冬という季節が好きだ。
寒いことはツラさもあるけれど、あったかいという事が幸せを感じさせてくれる。「寒い〜」と云いながら炬燵に入り温もる事こそ、冬用の寝具に包まり自分の体温で徐々に温もっていくあの布団の中こそ、冬の醍醐味なのである。それは、真夏にクーラーがキンキンに効いた場所で感じるものとはまた趣が違うのだ。
冬はとてもドライだと思う。空気が乾燥していて、景色が妙に退廃的に思えたりもする。それは枯れて枝だけになった木々がそう思わせるのか、南中高度が低い為に陽の光をあまり感じ取ることが出来ないからなのか。
そんな独特の風景に妙に馴染む音楽がある。音楽に季節感を感じる事がよくある。もちろんバンドやアーティスト側が「これは冬をコンセプトにした」という作品もよくあるから別段不思議なことでは無いのだけれど、音を聴いて「冬だなぁ」とか「これは夏っぽいなぁ」と感じることって実はもっと深く考えて良い現象じゃないか、と思ったりもする。それをうまく言葉に出来る自信はあまりないのだけれど。
同じはてなブログユーザーであるゆあさよ。様(id:yuasayo1013)に記事内で僕の事を紹介して頂き…ブログ的に詳しくはトラックバックと言うのだけど、Twitterでいうところのリツイートみたいなものをして頂いた。非常に嬉しい。
ゆあさよ。氏は音楽への造詣が深く、また語彙力も豊富でユーモアのセンスも抜群な御方である。是非とも氏のブログを読んで頂きたい。
氏にススメたアルバムリーフというバンドを改めて今朝聴いていて、冬に合う音楽をみっつくらい挙げてみたくなった。ので、挙げる。
TRAVIS/The Man Who
TRAVISの作るサウンド、そしてフラン・ヒーリィの歌声ってのがもう完全に冬という季節を内包している気がする。
この「The Man Who」というアルバムが彼らの出世作になるのだけど、TRAVISは今でもこの頃と変わらない彼らなりのロックスピリッツとセンスを遺憾なく発揮している、また発揮出来ている、稀有なバンドである。
高校生の頃、中村一義の「1,2,3」という曲のイントロからロックの洗礼を受けてからというもの、様々な音楽に触れてきた。特にUKロックと括られるイギリスのロックミュージックに強く興味を惹かれ、貪るように聴き漁った。
そうすると自然にTRAVISにも出逢う。はじめは彼らもその中のひとつでしかなかったのだけど、個人的には今のところTRAVISだけが残っている。今でもよく聴くし、新譜が楽しみなバンドである。
ベストアルバムを除けば、今現在8枚のオリジナル・アルバムが発売されていて、「Where you stand」という作品もとても冬っぽいのだけど、やはり「The Man Who」を推してしまうのは、アートワークの所為でもあるのでしょう。
TRAVISの作る音楽の「マイナー・メジャー」なコード感がとても好みだ。Eというコードでロックンロールを高らかに歌うわけでも、Amというコードで暗く陰鬱に浸るわけでもなく、Em7みたいな若干の明るさを持った叙情感が。
TRAVISを聴くといつも曇天模様な空がイメージされるのだけど、その曇天模様からは陽の光が少し漏れて、薄明光線がうっすらと漏れているようなそんな風景がイメージ出来る。
もしこの世界がバイオハザードによって崩壊し、奇跡的に生き残る事が出来、誰もいない荒野を車で走る時が来たら、「Where you stand」という曲を流したい。
「さむいさむい」とひとりごちながら。
the HIATUS/ANOMALY
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ハイエイタスの中でも1番難解なアルバムがこの「ANOMALY」ではないかと思う。
まるで真冬の吹雪みたいに、圧倒的冷徹さを持って間髪無く次々と進んでいく前半。それは「insomnia」をピークにして、やがて景色をしんしんと降り積もる雪を見ているようなものに変わっていく。「Antibiotic」なんてもう凍死間際のような暗さ。冷たさの先にあるのは暗闇だ、と言われているような気にさえなる。「西門の昧爽」で「ただやさしく夜が明ける」と明るさを持って終わってくれるのが唯一の救いか。
このアルバムは、何度聴いても上手く理解出来なかった。ポイントポイントでいいなぁと思うものはあっても、トータルで見た時にどう感じ取ればいいかが分からなかった。
それが、ある冬の日に聴いてみると自分でも驚くくらいすんなりと受け入れることが出来たのを覚えている。冬の夜だった。空にはオリオン座が出ていて、吐く息は白かった。訳もなく陰に浸ってしまうような暗い夜にその音楽が妙に染みて、染みすぎて時折ズキズキと痛みもしたけれど、聴き終わる頃には聴く前よりも気分がマシになっていたような。
季節に合った音楽を、実際にその季節に聴くことはとても大事だな、と教えてくれた作品です。
Copeland/You are my sunshine
フロリダ出身の(一応)エモバンド、コープランド。
以前にもブログにて言及したことがあるけど、ほんとに、冬。アルバムリーフも、トラヴィスも、ハイエイタスもそれぞれに冬だけど、コープランドだけは、冬そのものが音楽になったような気さえしてくる。逆説的に。
サウンド的にトラヴィス以降の、ああいう内省的な感じ…つまりフォロワーとも言えなくはないのだけど、トラヴィスでさえここまで冷たくはなれてない。
彼らをエモと呼ぶには軽率過ぎる気がする。エモのひとつ先にある独自のジャンルだと思う。そこが、UKロックが育んできた歴史とクロスしていて、面白い。
ギターの音もとてもいいのだけど、随所で出てくるスモークがかかったようなピアノの音がなんとも言えない。まるで廃墟に放置してあった古いアップライトピアノみたいな。どうやったらこんなピアノの音作れるんや…と。
…ということで。
もっともっと挙げたいのだけど、僕の文章の持久力が続くのがここまででした。
どの作品もほんとに理想的です。こんな音楽制作したいなぁって思います。
よく「読書の秋」とか云うけれど、「音楽の冬」って、どうですか?